[脊柱管狭窄症の手術選び・その②]椎弓を温存できる[還納式椎弓形成術]が注目で固定術の不要例も|カラダネ

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[脊柱管狭窄症の手術選び・その②]椎弓を温存できる[還納式椎弓形成術]が注目で固定術の不要例も

著者:日本赤十字医療センター副院長・整形外科センター長 久野木順一

脊柱管狭窄症の症状が重度の場合や、なかなか改善しない場合は、手術も選択肢のひとつとなります。さまざまな種類が存在する脊柱管狭窄症の手術の中でも、今回は狭窄部位が広範囲でも椎弓を温存できる「還納式椎弓形成術」について、日本赤十字医療センター 副院長・整形外科センター長の久野木順一先生に、詳しくお聞きしました。

脊柱管狭窄症の主な手術方法は以下にまとめて解説していますので、ご覧ください。
脊柱管狭窄症の主な手術4種類[手術法選択チャート]も大公開
[脊柱管狭窄症の手術選び・その①]除圧術で主流の「部分椎弓切除術」はさまざまな術式が発展
[脊柱管狭窄症の手術選び・その③]すべり症・側弯で背骨の変形が強ければ[固定術]が必要な場合も

椎弓形成術なら骨を最大限温存できる

腰部脊柱管狭窄症の手術で除圧が必要な場合、従来は前の記事で紹介した「椎弓切除術」や「部分椎弓切除術(開窓術)」が選択されていました。
しかし、椎弓切除術で確実に神経を除圧しようとすると、椎弓(椎骨の背中側の部分)を多く削り取ったり、場合によっては椎弓を丸ごと切除したりしなければなりません。そのため、脊柱管の狭窄箇所が多いと椎弓を広範囲に削り取ることになり、神経がむき出しになる部分が増えてしまいます。
その結果、上半身の重みを支えている背骨の強度が低下して不安定になり、脊柱管狭窄症が再発したり、後弯変形などの後遺症が起こったりする心配があったのです。
この問題を解決するために最大限に椎弓を温存できる「椎弓形成術」が開発されました。
椎弓形成術とは、椎弓をいったん切り離し、その内側(脊柱管側)を削って神経を除圧してから、再びもとの位置に戻す手術法です。脊柱管の狭窄部が3ヵ所以上あり、高度な狭窄のある例でも安全、確実に除圧が行えます(下のレントゲン参照)。十分な除圧が行われても骨を最大限に温存することができます。もちろん1ヵ所の狭窄例にも行うことができます。
この手術法なら、執刀医が切り離した椎弓を手に取って削れるので、骨を削る量を最小限に調整できるのです。
しかし、これまでの椎弓形成術では、手術の直後より強固に椎弓を固定するのが困難でした。糸による縫合や生体用の接着剤による固定では強度が劣る傾向があったのです。

手術直後より強固な椎弓の固定が可能に

そこで私たちは、早期から椎弓の強固な固定性を得るための工夫を重ねてきました。
その結果、考案されたのが「環納式(日赤式)椎弓形成術」です。環納式椎弓形成術は、確実性・安全性・脊椎の構築を最大限に温存できるなどの優れた特徴があります。また、1ヵ所の狭窄から多椎間の狭窄、高度な狭窄、軽度のすべり症などほとんどの狭窄症が適応となります。あらゆるタイプの狭窄症を根治に導く最良の術式だと私は確信しています。
では、環納式椎弓形成術の流れを説明しましょう。

環納式(日赤式)椎弓形成術の手術の流れ

001.pngまず、あおむけ寝の患者さんに全身麻酔をし、背中に小切開を加えます。次に、腰椎(背骨の腰の部分)についている筋肉はそのままにして、棘突起を形成して、椎弓を切開します。
そして、骨が露出したら、除圧するところの椎弓の一部を三角形に切り離し、神経を圧迫していた椎弓の内側や黄色靱帯(靱帯とは、骨との骨をつなぐ丈夫な線維組織)、突出した骨の一部を削り取るというわけです。
002.png削り終わったら椎弓をもとの位置に戻し、ミニプレートとミニスクリューを用いてしっかりと固定します。神経の圧迫が取り除かれたことを確認してから神経と環納椎弓の間にシリコン製のドレナージチューブを挿入します。いったん縦割りした棘突起も元の位置で固定します。筋肉と皮膚を縫合すれば手術は終了です。
手術時間は、狭窄部位の数や範囲によって異なりますが、1時間〜2時間ほどかかります。

還納式椎弓形成術は、保険も適用で1週間ほどで退院も可能

手術後は、翌日あるいは2日後に歩けるようになり、1週間から10日で退院できます。
環納式椎弓形成術では、椎弓を強固に固定できるため、手術の直後より日常生活動作の制限はありません(一応、軟性コルセットを2ヵ月程度着けてもらう)。
環納式椎弓形成術は健康保険が適用され、患者さんの自己負担は3割ですみます。手術費用・入院費用は、狭窄部の数や狭窄の状態によって患者さんごとに異なるので、医師から説明を受けてください。
すでに、環納式椎弓形成術は他院でも行われており、大きな成果を上げています。北里大学の研究によると、環納式椎弓形成術を受けた脊柱管狭窄症の患者さんの改善率は80.2%。中でも、腰痛の改善率は91.3%に達したと報告されています。

実際に還納式椎弓形成術を受けた患者さんの症例報告

①佐々木真樹夫さんの場合(65歳・仮名)

環納式椎弓形成術ではほかの術式以上に神経の除圧を丁寧確実に行えるため、術後早期から症状がすっきり改善します。私がこれまで手術した患者さんの中から2人の例を紹介しましょう。
1人めは、トライアスロン(鉄人レース)の愛好家である佐々木真樹夫さん(65歳・仮名)の例です。
トライアスロンでは走ったり、泳いだり、自転車に乗ったりします。7年前、練習に励んでいた佐々木さんは、足腰に鈍痛やしびれがあることに気づきました。症状は日増しに強くなり、1分も続けて歩けなくなったのです。
当院を受診した佐々木さんは、MRI(磁気共鳴断層撮影)による画像検査で、かなりひどい脊柱管の狭窄部が見つかりました。馬尾が損傷する恐れがあったため、すぐに手術を検討。狭窄部位は1ヵ所でしたが、神経が強く圧迫されていたので、内視鏡手術ではなく環納式椎弓形成術を行いました。
手術は無事に成功。要した時間は1時間半ほどです。術後、全身麻酔から覚めた佐々木さんは、足腰の痛みやしびれが消失していることに気づき、大喜びでした。翌日には歩けるようになり、1週間後に退院できたのです。
6週間後にはジョギングを開始し、半年後には早くもトライアスロンの大会に出場できたといいます。

②内田剛さんの場合(68歳・仮名)

004.png2人めは、走ることが趣味で、東京マラソンを完走した経験もある内田剛さん(68歳・仮名)です。
5年前から足腰の痛みとしびれに悩まされるようになった内田さんは、当院を受診して脊柱管狭窄症と診断されました。画像検査では4ヵ所の狭窄部を確認。マヒが現れており、爪先立ちができない状態だったので、ただちに環納式椎弓形成術で狭窄部を除圧することになったのです。
内田さんの手術は、4ヵ所の除圧が必要だったので2時間ほどかかりました。
手術後、マヒが残らず、両足にしっかりと力が入るようになったのは、環納式椎弓形成術の成果でしょう。2日めに歩けるようになり、1週間後には退院できたのです。
みるみる回復した内田さんは、マラソンの練習を再開。フルマラソンの出場をめざして、毎日走っているそうです。もちろん、足腰の痛みやしびれは全くありません。
このように手術後、トライアスロンを行ったり、フルマラソンを走ったりしても平気なのは、環納式椎弓形成術で十分に除圧を行い、同時に背骨を温存したからです。
除圧のさいに削るべき骨や靱帯が1㍉残るだけでも、痛みやしびれは再発します。環納式椎弓形成術では、椎弓を切り離して処置するので、骨や靱帯の削り残しがなく、十分に除圧ができるのです。
背骨の温存も、環納式椎弓形成術の重要な特長です。椎弓を切除せず、削る部分が必要最小限に抑えられるので、体を支える背骨の強度を保つことができます。
こうした2つの特長を併せ持つ環納式椎弓形成術は、多くの患者さんに自信を持ってすすめられる手術法です。

・記事の内容は安全性に配慮して紹介していますが、万が一体調が悪化する場合はすぐに中止して専門医にご相談ください。
・医療機関にて適切な診断・治療を受けたうえで、セルフケアの一助となる参考情報として、ご自身の体調に応じてお役立てください。
・本サイトの記事は、医師や専門家の意見や見解であり、効果効能を保証するものでも、特定の治療法・ケア法だけを推奨するものでもありません。

出典

koshiraku_002thumbnail.jpg●わかさ増刊号 脊柱管狭窄症克服マガジン「腰らく塾」 vol.2 2017年春号
http://wks.jp/koshiraku002/
著者:久野木 順一

●脊柱管狭窄症をいちから知りたい方は、ぜひ下の記事をご覧ください。

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