脊柱管狭窄症10の治療方法+治療体験者アンケート|カラダネ

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脊柱管狭窄症10の治療方法+治療体験者アンケート

著者:清水整形外科クリニック院長 清水伸一

脊柱管狭窄症の治療・治し方の選択肢

腰部脊柱管狭窄症は、初期のうちは足腰の痛みやしびれ、軽い間欠性跛行(こま切れにしか歩けなくなる症状)などの症状をときどき感じる程度です。しかし、病状が悪化・進行すれば、下半身の脱力や感覚障害、排尿・排便障害などの馬尾神経症状も現れます。そうなると保存療法(手術以外の治療法)では改善を見込むのが難しく、手術を検討する必要が出てきます。

脊柱管狭窄症は、できるだけ早い段階で整形外科を受診し、適切な治療やアドバイスを受けて改善を図ることがとても大切です。標準的な治療法と、それで症状が改善しない場合に当院で一定の成果を上げている治療法、さらに手術について、医師としての印象も含めお伝えします。

1.薬物療法
2.装具療法
3.温熱療法
4.通電療法
5.牽引療法
6.運動療法
7.神経ブロック療法
8.プラセンタ療法
9.AKA-博田法
10.手術(開窓術/拡大除圧椎弓形成術)

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1.薬物療法~軽度のうちは症状緩和に効果あり。プレガバリンは副作用に注意

現在、保存療法の柱となっているのが、薬物療法です。薬物療法は、症状の緩和が目的です。

主に用いられているのは、患部の血流を促して痛みやしびれを和らげる血管拡張薬や、痛み止めの非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDs)、障害された神経の修復を促すビタミンB12製剤です。また、最近では痛みが強い患者さんには、末梢神経障害改善薬のプレガバリンという新しい薬も用いられるようになっています。
そのほか、患者さんによっては筋弛緩薬や抗ウツ薬、漢方薬を用いる場合もあります。

消炎鎮痛薬は、痛みを和らげるという点では、脊柱管狭窄症のどのタイプ(神経根型・馬尾型・混合型)にも有効です。血管拡張薬は、間欠性跛行(こま切れにしか歩けなくなる症状)を和らげて歩行距離を延ばすのに役立ちますが、どちらかといえば馬尾型によく効き、神経根型では効果が現れにくい印象があります。ビタミンB12製剤は、神経根型には有効ですが、馬尾型では効果を実感しにくいようです。
薬物療法全般にいえるのは、軽度のうちなら症状の緩和によく効くものの、重度になるにつれて効果の現れ方が弱まるということです。
ちなみに最近、重度の患者さんには、末梢神経障害を改善するプレガバリンという新しい薬が用いられるようになっています。この薬は、強い痛みの緩和に大変よく効きますが、めまい・ふらつきなどの副作用も高頻度で見られるとされているので、服用に当たっては注意が必要です。

2.装具療法~症状軽減も長期間なら筋力低下につながる恐れ

薬物療法と並行して、装具療法や温熱療法も行われます。装具療法では、軟性コルセットを腰に着けて腰椎(背骨の腰の部分)を狭窄が軽減する位置に安定させます。

装具療法では、脊柱管の狭窄を軽減できる適切な位置に軟性コルセットを装着できれば、症状の軽減が望めます。ただし、長期間の継続使用は、筋力低下を招く恐れもあるので、漫然と使いつづけることはおすすめできません。

3.温熱療法/4.通電療法~血流を促し痛みの緩和に有効

温熱療法では、ホットパックや温湿布などを用いて患部を温め、血流の改善を促して痛みを和らげます。
通電療法は、専用の治療器を用いて電気を通し、筋肉の硬直をほぐしたり血流を促したりして、痛みを緩和する治療です。

温熱療法には、患部を温めて血流を促したり、筋肉の硬直をゆるめたり、心身をリラックスさせたりする一定の効果が期待できるため、当院でも症状の緩和に役立ててもらっています。通電療法も、筋肉性の痛みを和らげる効果に優れています。

5.牽引療法~1カ月効果がなければ即中止を

牽引療法は、専用の装置を用いて腰を引っぱり、椎間板にかかる負担を和らげたり、筋肉の緊張をゆるめたり、神経の圧迫を軽減したりする治療です。ただし、牽引療法は現在、脊柱管狭窄症に対しての効果を疑問視する声も多く、あまり用いられなくなっています。

牽引療法には明らかな治療効果がないという説や、逆効果になるという指摘があります。中には症状の改善が見られる人もいます。効果を感じられているなら、そのまま続ければいいでしょう。しかし、1ヵ月続けても改善が認められなかったり、症状が悪化したりする場合は、中止すべきです。

6.運動療法~脊柱管狭窄症に安静は逆効果。見逃されがちだが最も重要な治療法

運動療法では、患者さんみずからが積極的に体を動かして、関節や靱帯(骨と骨をつなぐ丈夫な線維組織)、筋肉を柔軟にしたり強化したりすることで、病状の改善を図ります。運動療法は、ときにほかの治療法をはるかにしのぐ効果の得られることが少なくありません。

以前は、脊柱管狭窄症による足腰の痛みやしびれを訴える患者さんに対し、医師が「安静第一」とすすめた時代がありました。
ところが、最近の研究で、過度の安静は、腰の筋力低下を招いて病状が悪化する恐れがあるため逆効果と考えられています。もちろん、症状の強い急性期は安静が必要ですが、症状がある程度治まったら、運動療法や散歩、家事などを行い、体を動かしたほうが心身にいいようです。

腰部脊柱管狭窄症は、保存療法を駆使しながら病状の悪化を抑え、日常生活に著しく支障をきたしたら手術を検討する、という考え方が一般的です。ところが、現実にはそうした通りいっぺんの治療だけでは脊柱管狭窄症を克服できない人が跡を絶ちません。
そして、行きづまった患者さんは、さまざまな医療機関や民間療法、治療院をさまよい歩き、「狭窄症難民」となってしまうのです。これはなぜなのでしょうか。
実は、脊柱管狭窄症が克服できない患者さんには、最も重要な治療が抜け落ちていることが多いのです。その治療とは「運動療法」です。
運動療法は、自分の意志で手軽に取り組めるのはもちろん、体のメンテナンス(手入れ)ができ、心身の機能を維持する大変有力な治療法です。
症状の予防・改善にも悪化防止にも、大いに役立ちます。つまり、脊柱管狭窄症の克服に極めて有効なのです。

7.神経ブロック療法~中程度の症状に有効だがリスクも~

ここまでの治療法で症状が改善しない場合は、次の手段として神経ブロック療法を行います。神経ブロック療法とは、局所麻酔薬を注射して神経を一時的にマヒさせ、脳に送られる痛みの信号を遮断する治療法です。
神経ブロック療法にはいくつかの種類がありますが、脊柱管狭窄症に対して主に用いられるのは、硬膜外ブロックと神経根ブロックの二種類です。
硬膜外ブロックとは、硬膜(脊髄を包む三枚の膜のうち一番外側にある膜)と、硬膜の外側にある黄色靱帯の間に麻酔薬や炎症を抑えるステロイド薬を注入します。神経根ブロックでは痛みを感じている神経根の周囲に麻酔薬を直接注入します。

神経ブロック療法は、薬物療法や温熱療法、装具療法などで改善しない中等度や重度の痛みやしびれの解消に効果があります。痛みを素早く解消することができますが、血圧低下を招いたり、神経根を傷めたり、感染症を起こしたりする恐れもあるため、医師から十分な説明を受けて慎重に行う必要があります。また、治療には強い痛みを伴うため、向かない患者さんもいます。なお、手術の適応を見極める目的で行うこともあります。

8.プラセンタ療法~痛み・しびれを改善する治療法で6割に効果あり~

人間の胎盤から抽出したプラセンタエキスを皮下や筋肉に注射したり、ブタ由来のプラセンタエキスのサプリメント(栄養補助食品)をとったりして、足腰の痛みやしびれを改善する治療法です。プラセンタエキスには、衰えた神経や軟骨を修復する効果があると考えられています。治療を希望する人は、日本胎盤臨床医学会に所属するクリニックに相談するといいでしょう。
脊柱管狭窄症の手術後に症状が再発した患者さんにプラセンタ療法を行った結果、約4割に改善が見られました。術後一年以内であれば、約6割の人に改善が認められています。

9.AKA-博田法~医師が手技で関節の障害を正す

骨盤の中央にある仙腸関節(仙骨と腸骨をつなぐ関節)に起こった機能障害を足腰の痛みやしびれの原因と考え、それを正す、医師による手技療法です。治療を希望する人は、日本AKA-博田法医学会に所属する専門医や指導医に相談してください。
なお、プラセンタ治療とAKA-博田法は、病医院によって健康保険の適用の有無が異なります。そのため、治療を受けるときは、費用について十分に調べてから受診するようにしましょう。

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10.脊柱管狭窄症の手術~保存療法で治らない場合、生活に不便がある場合の選択肢~

繰り返しになりますが、腰部脊柱管狭窄症の治療の第一選択は、ここまで紹介してきた保存療法(手術以外の治療法)です。保存療法で症状が改善し、日常生活の不便を減らすことができれば、手術を行う必要はありません。また、症状が改善しなくても、症状が進行せず日常生活を支障なく送れているのであれば、保存療法を継続していていいでしょう。

手術を薦めるケースとは

ただし、保存療法を3~6ヵ月続けても症状が改善せず、生活に不便がある場合は、手術を選択肢に入れたほうがいいかもしれません。
特に、馬尾神経が著しく障害されて起こる尿失禁や便秘などの排尿・排便障害、足腰のマヒ・感覚異常、重度の間欠性跛行(10~20mの歩行も困難)がある場合は、できるだけ早く手術を受けるべきでしょう。

骨を多く温存し神経の圧迫を除去する「開窓術」「拡大除圧椎弓形成術」が主流

脊柱管狭窄症の手術の目的は、狭くなった脊柱管を広げて神経の圧迫を取り除くことです。最近の手術法として主流になっているのは、「開窓術(部分椎弓切除術)」と「拡大除圧椎弓形成術」の二種類です。

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そもそも背骨を構成している椎骨は、前方(おなか側)の椎体と後方(背中側)の椎弓からなっており、脊柱管は椎体と椎弓に囲まれた空洞です。
脊柱管が部分的に狭くなっているときには、開窓術を行います。開窓術では椎弓に穴をあけて、そこから神経を圧迫している骨や黄色靱帯(靱帯とは骨と骨をつなぐ丈夫な線維組織)を部分的に切除して、脊柱管を広げる手術です。以前は、椎弓を丸ごと切除する椎弓切除術が主流でしたが、最近では骨を多く温存できる開窓術のほうが増えてきています。

なお、脊柱管の狭窄が1ヵ所、または隣り合った2ヵ所で起こっているときは、内視鏡を用いた開窓術を選択できます。内視鏡を用いた開窓術では、腰椎をX線で透視しながら内視鏡カメラを挿入し、小さな鉗子で神経を圧迫している椎骨や靱帯を取り除きます。

一方、脊柱管の狭窄が3ヵ所以上あったり狭窄部が隣接せずに離れていたり、狭窄の程度が著しかったりする患者さんに対しては、拡大除圧椎弓形成術が適用されます。
拡大除圧椎弓形成術とは、椎弓をいったん切り離し、その内側を削って脊柱管を十分に広げたあと、再び椎弓をもとの位置に戻す手術法です。執刀医が実際に椎弓を手に取って削るので、骨を削る量を最小限に減らせるという利点があります。

手術後もしびれが残るケースも。再発を防ぐためにも医師とよく相談して

こうした手術を受ければ、多くの場合、足腰の痛みや間欠性跛行の症状は改善されます。最近は手術技術も向上しているため、手術中の事故も減少しています。
ただし、中には手術をして足腰の痛みが改善しても、しびれの残る人が見られます。これは、神経の損傷が著しく、手術で脊柱管の狭窄を除いても神経が十分に回復しなかったり、回復に時間がかかったりしていることが原因と考えられます。高齢者の場合は、「手術を受けたのに手術前としびれの程度が全く変わらなかった」という人もいます。
こうした事態を防ぐには、手術前に医師とよく相談し、神経の回復が見込めるタイミングで手術を受けることが大切です。
なお、しびれが消えない原因として、脊柱管狭窄症とともに足の動脈硬化(閉塞性動脈硬化症やバージャー病など)を併発しているケースも少なくありません。この場合は、血小板の凝固を抑える薬の処方など、しびれの原因となる病気の治療を行えば改善していくでしょう。
また、手術を行っても、しばらくたったあとに症状の再発する人がいます。これは、手術後も悪い姿勢や偏った動作が習慣になっていることが原因と考えられます。
さらに、手術では多かれ少なかれ腰椎を削るため、手術後に腰が不安定になり、腰の周囲の筋肉・骨盤・仙腸関節にかかる負担が増してしまう恐れもあります。その結果、手術後しばらくしてから、手術前と違った腰痛が起こる危険があるのです。
手術後の症状の再発を防いで脊柱管狭窄症を克服するには、そうした悪い姿勢や偏った動作や習慣を改めなければいけません。それとともに、運動療法などのセルフケアに努めて腰の筋肉や靱帯を強めることが大切です。手術をした人こそ、十分に体のメンテナンス(手入れ)を行うべきなのです。

次ページでは、読者アンケートで見えた脊柱管狭窄症に悩む人たちの実態をお届けします。どうやら、医師が効くと考えている治療と、患者さんが実際に効いたと感じている治療には、違いがあるようです。

読者アンケートで見えた脊柱管狭窄症に悩む人たちの実態

健康雑誌『わかさ』編集部では、『わかさ』2015年4月号(脊柱管狭窄症の大特集号)において、読者のみなさんを対象に、脊柱管狭窄症実態調査アンケートを行いました。その結果、512名から回答が集まりました(有効回答数。男性251名、女性261名)。
すると、今までわからなかった脊柱管狭窄症の実態が、浮き彫りになってきたのです。

医師が効くと考えている治療と実際に効いた治療

今回のアンケート調査では、狭窄症の治療について、どんな治療を受けましたか?(複数回答可)と、効果を感じられた治療法はなんですか?(複数回答可)という2つの質問を設けました。
これは実にユニークな設問で、医師が効くと考えている治療と、患者さんが実際に効いたと感じた治療の差がよくわかります。
まず、受けた治療として回答が多かったものから順に紹介しましょう。

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最も多かったのが消炎鎮痛薬で、52%の人が受けたことがあると答えていました。二番めは血管拡張薬(プロスタグラジンE製剤)で、30%。これは、間欠性跛行やしびれがあるときによく使われます。
神経ブロック療法は、局所麻酔薬を注射して神経を一時的にマヒさせる治療法ですが、治療経験者は23%。神経の修復を促すために用いられるビタミンB製剤は、20%の人に服用経験がありました。
コルセットなどで腰を固定する装具療法は19%、温熱療法は18%、通電療法は16%、腰椎(背骨の腰の部分)を引っぱる牽引療法は16%という結果になりました。
運動療法の経験者は13%。狭窄症の新たな治療薬として注目されている神経障害性疼痛治療薬(プレガバリン)の治療経験者は10%でした。
病状が悪化してくると手術が検討されるようになりますが、アンケートでは手術を受けた人は9%にとどまっていました。以下、漢方薬や筋弛緩薬、AKA療法(正式にはAKA-博田法という)、プラセンタ療法、ステロイド薬、トリガーポイント療法と続きました。
このうち、関節の動きを改善させる手技療法のAKA療法や、ヒトの胎盤から抽出したプラセンタエキスを皮下に注射するプラセンタ療法、痛みの引き金となっている筋肉のこりを解消するトリガーポイント療法などは、効果が期待されている比較的新しい治療法です。

効いた治療1位は手術、僅差で運動療法が2位に

では、次に、読者のみなさんが脊柱管狭窄症への効果を感じたと回答した治療法について見てみましょう。

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手術を受けた人のうち66%が、手術で効果があったと答えています。手術以外の治療法である保存療法で第一位になったのは、驚くべきことに運動療法でした。運動療法を行った人のうち61%が、効果を感じたと回答したのです。これは手術の改善効果に肉薄する数字であり、運動療法の効果を多くの人たちが感じていることがわかる結果となりました。

プラセンタ、AKAなど新治療法も○。薬物療法は効果薄か

そのほかにも、効果を感じた治療法としては、プラセンタ療法(56%)、AKA療法(50%)、神経ブロック療法(45%)などがありました。こうした比較的新しい治療法に対して、患者さんの半数前後が効いたと感じています。
一方、脊柱管狭窄症の治療でまず処方される消炎鎮痛薬に対しては、効果を感じた人は37%と低い結果となりました。血管拡張薬や神経障害性疼痛治療薬についてもほぼ同様の数字で、この結果を見るかぎり、薬物療法にはあまり効果を感じていないようです。

このアンケート結果は、日々、脊柱管狭窄症の診療に取り組む医師にとっては非常に貴重なものです。脊柱管狭窄症の症状は患者さん一人ひとりで異なります。従来の治療法を通り一遍に行っても、症状の改善が自覚できないかぎり、患者さんは納得できずに、やがて自ら積極的に治療に取り組もうという意欲を失いかねません。
医師として、患者さんそれぞれの病状を詳細に見分けるのはもちろん、症状や治療法について患者さんからの言葉に耳を傾け、その人に合った治療法を、患者さんといっしょに二人三脚で作り上げて行くことの重要性を、今回のアンケート結果を見て改めて痛感しました。

・記事の内容は安全性に配慮して紹介していますが、万が一体調が悪化する場合はすぐに中止して専門医にご相談ください。
・医療機関にて適切な診断・治療を受けたうえで、セルフケアの一助となる参考情報として、ご自身の体調に応じてお役立てください。
・本サイトの記事は、医師や専門家の意見や見解であり、効果効能を保証するものでも、特定の治療法・ケア法だけを推奨するものでもありません。

狭窄症Part01_cover.png出典:
わかさ夢ムック1 腰と首の脊柱管狭窄症に絶対勝つ!あっと驚く自力克服道場
http://wks.jp/mook001/

狭窄症Part02_cover.pngわかさ夢ムック13 脊柱管狭窄症に絶対勝つ!新研究で続々わかった!あっと驚く自力克服道場パート2
http://wks.jp/mook013/

●脊柱管狭窄症をいちから知りたい方は、ぜひ下の記事をご覧ください。

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