自治医大病院専門医が解説!骨や椎間板を削らず腰の激痛を除く新手術[エピドラスコピー]|カラダネ

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自治医大病院専門医が解説!骨や椎間板を削らず腰の激痛を除く新手術[エピドラスコピー]

著者:自治医科大学附属病院 准教授 五十嵐 孝

脊柱管狭窄症の治療では、薬の処方や運動療法などを行う保存療法が主に行われますが、効果が上がらず、痛みやしびれが長期化する場合、手術も検討されます。
しかし、脊椎を削る手術の場合は、体への負担が大きく高齢者などには向いていないことも多くあります。
そこで注目されているのが麻酔科で行われる、低侵襲の外科手術「エピドラスコピー」です。

この記事では、エピドラスコピーを1000人以上の患者さんに行い、その効果を実際の目で見てきた自治医科大学附属病院 准教授の五十嵐孝先生に、エピドラスコピーについてくわしく解説してもらいます。

エピドラスコピーは、体の負担が少ない低侵襲の新治療法

腰部脊柱管狭窄症の治療では、手術以外の保存療法が第1選択肢になります。湿布やマッサージ、リハビリなどで痛みやしびれが和らいで健やかに過ごせれば、それに越したことはありません。
しかし、保存療法の効果が上がらず、痛みやしびれが長期化して日常生活を送るのが困難になった場合、手術の必要性も考慮されます。
とはいえ、高齢者が外科手術を受けるとなると、体への負担が大きく、それに耐えられるかが問題になります。
さらに、体を大きく切開して腰椎(背骨の腰の部分)を削る手術の場合、退院するまでに筋力が落ちてしまったり、気力が衰えてリハビリが進まなかったりするなど、術後のQOL(生活の質)が著しく低下する心配があります。
そのため、症状は悪化しているのに手術に踏み切れず、痛みやしびれに耐えるしかないと嘆く人が少なくありません。
また、手術を受けることができても、それで完全に治るとはいい切れません。術後にしびれや痛みが残る、腰椎手術後疼痛症候群(FBSS)になって、再手術となるケースもあります。これは、腰椎を削ったことによって、体の支えが不安定になるのが一因と考えられています。
こうした脊柱管狭窄症の症状に悩む患者さんに対する解決法の一つとして、近年、「エピドラスコピー」が注目を集めています。エピドラスコピーは、内視鏡を用いて行う、患者さんの体への負担が極めて少ない低侵襲の外科的治療法です。

神経が周囲の組織と癒着して痛みが発生

エピドラスコピーの解説をする前に、なぜ、脊柱管狭窄症によって痛みやしびれが起こるのかを説明しましょう。
脊柱管狭窄症の場合、原因が多岐にわたることが少なくありません。その中の大きな原因の一つとして、特に高齢者に多く見られるのが、脊柱管を通る神経と組織の癒着、そして炎症です。
背骨を通る神経である脊髄は硬膜という膜に覆われ、周囲を取り巻く脊柱管との間に、硬膜外腔と呼ばれる2~5mmのすきまがあります。
ところが、脊柱管狭窄症の患者さんの硬膜外腔では、そのすきまが失われ神経と組織の癒着や炎症が特異的に多く見られます。さらに、椎間板の老化による椎骨の変形、腰椎を支える筋力の低下などが加わって、神経の圧迫や引きつれなどが起こり、これが痛みやしびれを引き起こすのです。
こうした、脊柱管内における神経と組織の癒着や炎症を取り除く外科的治療法が、エピドラスコピーです。
エピドラスコピーは、1995年に米国で椎間板ヘルニアの手術後の難治性坐骨神経痛の治療に採用され、使用する硬膜外腔内視鏡の名称から、エピドラスコピーと呼ばれるようになりました。この術式は、その後、世界に広がり、日本では2000年に「エピドラスコピー研究会」が発足。現在までに、エピドラスコピーは、先端を大きく曲げられる軽性鏡という内視鏡が開発されたことにより、長足の進歩を遂げました。

極細の内視鏡を脊柱管に挿入する

エピドラスコピーに使用する内視鏡は直径0.8~0.9mmの極細の管で、先端には二つの穴があります。
一つの穴はビデオガイドカテーテル(カメラ)で、もう一つの穴は生理食塩水の注入や、手術のための穿刺キット(メスやガーゼなどの手術器具)、生理食塩水や薬液、ワイヤーなどを取り付けられます。
内視鏡は、左右への屈曲操作が可能で、全体を90度回転させて脊柱管のおなか側・背中側両方の観察・治療ができます。

03_16_004.png実際の治療では、まず、患部を鮮明な画像で見るために造影剤を投与し、デジタルCT(コンピューター断層撮影)により、リアルタイムで患部の状況がわかるようにします。
それから、患者さんに全身麻酔を施して、手術台の上にうつぶせに寝てもらいます。
次に、お尻の付近を1cmほど切開します。ここから脊柱管内の硬膜外腔に通じる穴(仙骨裂孔という)に向けてイントロデューサーと呼ばれる導入針(内視鏡)を挿入し、脊柱管内、つまり硬膜外腔に達します。
03_16_005.pngイントロデューサー内にあらかじめ装着したビデオガイドカテーテルを通し、患部の観察を行い、その後、硬膜外腔を生理食塩水で満たして硬膜外腔のすきまを広げ、患部の処置に入ります。
ビデオモニターでようすを確認しながら、神経と組織の癒着があればその癒着部分を
メスではがしたり、炎症のある部分に局所麻酔薬とステロイドの混合薬を注入したりして、炎症を抑えます。
これらはすべてビデオモニターによる直視下で行われるため、癒着をはがすさいの手技や、薬剤の投与なども確実性の高い治療ができるようになっています。
03_16_006.pngすべての処置を終えたら、切開した部分を縫合し、手術は完了です。手術にかかる時間は1時間前後です。縫合はせいぜい1~2針なので、傷跡はほとんど目立ちませんし、傷の治りも早いものです。
術後は通常、縫合部の抜糸がすむまでに数日~1週間の入院となります(病院によっては1泊ですむ)。また、骨や椎間板を削らないので、術後にリハビリを行う必要はほとんどありません。
このようにエピドラスコピーは、保存療法と外科手術のちょうど中間に位置する治療法です。
特に高齢の患者さんで手術を検討している人は、まずはエピドラスコピーを検討するのが賢明でしょう。

エピドラスコピーは神経根型に特に有効

腰部脊柱管狭窄症は、神経が圧迫される部位によって「馬尾型」と「神経根型」に大別できます。
馬尾型は脊髄の末端から伸びている馬尾という末梢神経の束が圧迫されるタイプ。もう一つの神経根型は、脊髄から左右に枝分かれした神経の根もと(神経根)が圧迫されることで痛みやしびれが発症するタイプです。
この二つのタイプのうち、マヒや排尿・排便障害など重い症状が現われやすい馬尾型では、外科手術が選択されるケースが多く、神経根型では保存療法で痛みやしびれをコントロールすることが多いようです。
ただ、神経根型においても保存療法で効果が認められない場合には、外科手術が検討されます。そして神経根型においては、近年、エピドラスコピーの有効性が明らかとなり、重要な選択肢となってきました。
エピドラスコピーは現在、脊柱管狭窄症をはじめ、腰椎椎間板ヘルニアや腰椎手術後疼痛症候群にも、その症状を改善する効果が臨床研究により明らかになっています。
私はこれまで、1000人以上の腰痛の患者さんにエピドラスコピーを行ってきました。
脊柱管狭窄症の中でも長期にわたって治療効果が持続しやすいのは、神経の根もとが圧迫されて起こる神経根型のタイプですが、治療の翌日から痛みが大幅に軽減する患者さんを何例も見てきました。また術後1年の検査でも、治療効果がはっきりと持続している患者さんが多いのです。
ただし、エピドラスコピーは、すべての腰痛が治ってしまう夢の治療法ではありません。術後も神経の再癒着を防止するために、仙骨裂孔硬膜外ブロック注射を定期的に打つケースもあります。しかし痛みを取り除けばQOLの向上が見込まれる患者さんには合っている治療法といえます。

麻酔科やペインクリニック科で行われる

ただし、エピドラスコピーの治療は、希望すれば誰でも受けられるわけではありません。治療を受けるためには、「腰椎の変形が軽微で脊柱管に内視鏡が挿入できる」「保存療法で効果が得られない」など、いくつかの条件に病状が合わなければなりません。
なお、エピドラスコピーは現在、健康保険が適用されず、自費診療となります(各病院によって異なる。手術代で15万~20万円)。
エピドラスコピーは、腰部の骨の手術なので、整形外科で受けると思われがちですが、主に麻酔科やペインクリニック科で行われています。
現在、国内でエピドラスコピーを行っているのは13の病院ですが、外科手術よりも体にやさしい治療法なので、試してみる価値は大いにあるでしょう。

・記事の内容は安全性に配慮して紹介していますが、万が一体調が悪化する場合はすぐに中止して専門医にご相談ください。
・医療機関にて適切な診断・治療を受けたうえで、セルフケアの一助となる参考情報として、ご自身の体調に応じてお役立てください。
・本サイトの記事は、医師や専門家の意見や見解であり、効果効能を保証するものでも、特定の治療法・ケア法だけを推奨するものでもありません。

出典

腰らく塾_Vol.4_表1(epub).jpg●脊柱管狭窄症克服マガジン 腰らく塾vol.4 2017年秋号
http://wks.jp/koshiraku004/

●脊柱管狭窄症をいちから知りたい方は、ぜひ下の記事をご覧ください。


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