脊柱菅狭窄症の基礎知識と治療の問題点|カラダネ

【学ぶ】基礎知識

脊柱菅狭窄症の基礎知識と治療の問題点

著者:清水整形外科クリニック院長 清水伸一

「“脊柱管狭窄症がもう治らないのではないか”とあきらめかけている人には、“それは違う!”と断言します」

熱く語るのは清水整形外科クリニックの院長として、患者の治療にあたる清水伸一医師。

清水先生は、治療を難しくしているのは「医師や薬への依存」だと考えています。本当の痛みや違和感は、本人にしかわからないもの。自ら考え、工夫する「自立治療」こそ、腰部脊柱管狭窄症(以下、脊柱菅狭窄症)を根本から克服するカギだといいます。

脊柱菅狭窄症のメカニズムや原因から、狭窄症治療の「いま」を教えてもらいました。

脊柱菅狭窄症ってなんだ?

背骨(脊柱)は「椎骨」という骨が積み重なってできています。
kyosaku01.png椎骨の中には空洞があり、背骨の中でつながってトンネル状の穴をつくっています。これが「脊柱管」です。
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脊柱管には重要な神経の束が通っています。
kyosaku03.png背骨が本来の形を崩すと、脊柱管の一部が狭くなり神経が圧迫されることがあります。
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こうして痛みやしびれの起こる病気が、脊柱菅狭窄症です。
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なお、脊柱菅狭窄症の症状は腰痛が主ですが、胸椎(背骨の胸の部分)や頚椎(背骨の首の部分)でも起こります。神経はつながっているので、排尿・排便障害や足裏のしびれなど、下半身に支障をきたす場合もあります。

kyosaku05.png※2015年に健康雑誌「わかさ」で独自調査。

脊柱菅狭窄症はなぜ起こる?

背骨は、5〜6kgともいわれる頭の重みを吸収、分散するため、ゆるやかなS字カーブを描いています。
kyosaku06.png本来のS字が崩れると、身体の重心にズレが生じ、骨や靭帯、筋肉のバランスが狂います。

背骨の構造上、もっとも負担が集中しやすいのが腰椎(背骨の腰の部分)の下位です。可動性が高い部分でもあるため、椎骨と椎骨が滑るようにズレたり、負担がかかるため脊柱管が狭窄するケースが多く見られます。
kyosaku14.png背骨のS字カーブが崩れるのは、加齢や疲労、個人のクセなどにより、姿勢が崩れるからです。脊柱管狭窄症の最も大きな原因は「悪い姿勢」だと言って良いでしょう。

kyosaku07.pngスマホやパソコンを長時間使っていると、猫背やストレートネック(首のカーブがまっすぐになった状態)になりやすくなります。現代人の生活習慣が、狭窄症患者を増やしているのは間違いありません。

kyosaku08.pngショルダーバックをかけたり足を組むだけでも、姿勢は崩れます。症状が腰痛に現れていても、そもそもの身体のゆがみは、別のところから起こっている可能性もあります。

そう考えると、狭窄症の本当の原因をレントゲンやMRIで特定できないのは当然かもしれません(特に腰痛の85%は特定できないと言われている)。脊柱菅狭窄症は悪い姿勢により全身の原因から起きる病気であり、全身に及ぶ病気なのです。

なぜいま脊柱菅狭窄症が問題視されるか?

脊柱管狭窄症と心の不調が問題視されています。長い間、痛みやしびれが続けば、心が折れ、不安やストレスから痛みが増殖すると言われています。

どうして自分だけ・・・

どうせ誰もわかってはくれない・・・

この後どうなるのか・・・

気分が落ちて自分の殻に閉じこもると、自然と日常の活動量が減っていきます。そうなると、筋力が衰え、ひいては狭窄症の症状が悪化していきます。

心が病気に与える影響は、脊柱管狭窄症だけに当てはまることではありません。しかし、最近数年で特に、狭窄症の治療・研究に携わる医師たちがメンタルを大きなトピックしています。

私自身、精神的ストレスから不安を訴える患者さんが非常に多いことを、外来の現場で強く感じています。

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脊柱管狭窄症治療3つのアプローチ

ここでは、脊柱菅狭窄症の根治に向けた治療を、大きく3つのアプローチに分けてみます。

  1. 痛みを抑えて負の連鎖を断つ
  2. 体幹を鍛えて痛みが出ないようにする
  3. 姿勢を正して痛みの原因を取り除く

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現在、多くの病院で行われる狭窄症治療は1。具体的には、温熱療法や湿布、コルセット、特に薬物療法です。

2、3は主に運動療法です。効果が見込めるにもかかわらず、十分に行われていないことが残念です。

薬物治療の目的と問題点

痛みは筋肉を硬直させ、身体のバランスを崩し、新たな痛みを生みます。負の連鎖を断ち切るために、薬で痛みを抑える方法は間違っていません。ただし、「多剤併用」の問題を考えさせられます。

kyosaku11.png私のクリニックには、他の病院での治療を経験した患者さんが多くやってきます。10種類以上の薬を出されていた人ばかりです。けれど、そんなに飲んでいたら、どの薬が効いているのかわかりませんし、副作用のリスクもあります。医療費もバカになりません。

まず薬を減らし、効果のあるものを確認する必要があります。そして、多くは痛みを抑える薬であり、薬だけでは脊柱菅狭窄症が根治しないことを理解してください。

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運動療法で症状の改善、根治へ

私は狭窄症治療の中心は、運動療法だと考えています。目的は痛みを抑えるのではなく、筋肉を強くして背骨のS字カーブを支え、痛みが出ないようにすること。

とはいえ、強い腹筋・背筋を持つスポーツ選手でも、脊柱管狭窄症で腰痛になることがあります。運動療法でも、やみくもに筋肉を鍛えるのではなく、体幹を支える深層筋(インナーマッスル)を鍛えるのです。
kyosaku12.png症状別に、簡単に楽しくできる体操を紹介しているのでぜひ試してください。

強い深層筋は、背骨のS字カーブを支えて身体のゆがみから神経を守り、ある程度は痛み・しびれが出ないようにすることができます。しかし、姿勢が悪いままではゆがみは解消されません。

根治へ向かうには、最も大きな原因である姿勢を改善すること。簡単な体操を動画で紹介しましょう。

ただし、一般的な「良い姿勢」が狭窄症の人にとって良いとは限らないと考えてください。悪い姿勢といっても、慣れた人にとっては楽な姿勢。無理して背筋を伸ばすと、痛みの元になる可能性があります。

無理なく姿勢を正すのに便利なのが、次の「スーッと背伸び」です。痛みの出ないギリギリのポジションが、今できる最良の姿勢です。

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詳しくは下の記事をご覧ください。

できれば30分に1回程度、生活の中で意識して背筋を伸ばしてみてください。

まとめ

脊柱菅狭窄症が改善しない場合、手術も一つの選択肢となります。ただし、固定手術で背骨を固定してしまうと、背骨としての動きが止まり新たな身体のゆがみを生み、また別のところで狭窄症が再発する可能性もあります。また、背骨の使い方(姿勢)を改善しないで手術をしても、同じ部位に圧がかかり数年後には同じ症状が再発してしまいます。
結局のところ、運動療法で身体をケア、改善しなければ根治は難しいでしょう。

身体を動かせばストレス発散になり、毎日続けることで達成感を得られます。昨今、特に問題となっている心の問題にも、有効な対策となるのです。

・記事の内容は安全性に配慮して紹介していますが、万が一体調が悪化する場合はすぐに中止して専門医にご相談ください。
・医療機関にて適切な診断・治療を受けたうえで、セルフケアの一助となる参考情報として、ご自身の体調に応じてお役立てください。
・本サイトの記事は、医師や専門家の意見や見解であり、効果効能を保証するものでも、特定の治療法・ケア法だけを推奨するものでもありません。

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